2.3. 水と生命
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地球上の生命は陸上に進出するまでに30億年間も水の中で進化した
依然として水と深い関わり
細胞自身の水分含量も70~95%
生命をサポートする水の特性
水分子の極性と水素結合によって、生命をサポートする水の特性のほとんどが説明できる
4つの特性
水の凝集性
温度変化を緩和する能力
氷が浮くことの生物学的意義
溶媒としての多様性
水の凝集
水分子は水素結合によってたがいに凝集する
液体の水では、分子間の水素結合の持続時間はわずか数ピコ秒($ 10^{-12}秒)だが、どの瞬間でも多くの分子は他の分子と水素結合している
同種の分子がたがいに結合する性質
水の凝集はほとんどの液体と比べてずっと強い
水の凝集は生命の世界では重要である
たとえば、樹木は根から葉へ水を輸送するのに凝集を利用している
液体の表面を引っ張ったり壊したりすることの難しさの尺度
水素結合によって水は特に高い表面張力をもち、水は見えない薄膜で覆われているようにふるまうことができる
水は温度変化を穏やかにする
水素結合のために水はどんな物質よりも温度変化しにくい
サンフランシスコ湾を泳いで横断している人は、海の水よりも高い温度(体温)を持っているが、湾はその膨大な水量のためにはるかに多い熱量を持っている
物体に含まれる原子や分子の運動に関連したエネルギーの総量 熱の強さを測るもの
物体の熱の総量ではなく、分子の平均運動速度
水を熱すると、熱エネルギーによって水素結合が切られ、水分子をより速くあちこちに突き動かす
水分子の運動速度が上がるまでは、水の温度は上昇しない
まず、熱は温度を上げるよりもまず水素結合を切るのに使われるので、数度上昇する間に水は大量の熱を吸収し蓄える
逆に冷やされると、水素結合が形成され、熱が放出される
地球上の莫大な水は、暖かいときには太陽からの膨大な熱を蓄え、寒いときには熱を放出して大気を暖めることによって、生命活動を許す範囲に温度を保つことができる
これが海に面した地域の気候が内陸よりも温暖である理由
ある物質が蒸発するとき、あとに残された液体の表面は冷却される
これは、分子の中の最もエネルギーが高いものがまず蒸発しやすいから
地球規模では、熱帯の海洋は海表面からの蒸発で冷却する
個々の生物で見ると、気化冷却は陸上の生物がオーバーヒートになることを防いでくれる
湿度が高いと疲れる→すでに水蒸気で飽和している空気では汗をかいても気化冷却が起こりにくいため
氷が浮くことの生物学的意義
ほとんどの液体は温度が下がると分子は互いに近づくようになる
十分に温度が低下すると、液体は凝固し固体となる
しかし水は、温度が十分低下すると、水分子は少し離れて氷を形成する
氷塊は同じ体積の液体の水よりも少ない分子数でできている
まわりの液体の水よりも密度が低くなり、氷は浮く
これも水素結合の結果
水の短寿命の水素結合とは対照的に、氷の中の水素結合は各分子がまわりの4つの水分子とより長く結合できる
結果として、氷はすきまの多い結晶
氷が浮くという事実
氷が沈降すれば海洋さえもがいずれは凍結してしまうだろう
夏の間、海の氷の表面が数センチメートルは融解するかもしれない
しかしそうではなく、深いところの水が冷却されて形成された氷は浮かび、その下の水は隔離され、表面の氷の下で生命が生存できる
水は生命のための溶媒
2種以上の物質が均一に混ざった液体
溶かす物質
溶かされる物質
水が溶媒のとき
生物を作る液体は水溶液
水は生命に必要な膨大な種類の溶質を溶かすことができる
水は細胞の中や血液や植物の樹液における溶媒
溶媒としての水は化学反応の媒体となる
水は塩のイオンを溶かすことができる
すべてのイオンはそれと反対に帯電した水分子の極性部分に取り囲まれるようになる
糖のような極性分子が溶質として溶けるとき、その分極した部分が逆に分極した水分子に取り囲まれるようになる 酸・塩基とpH
生物の内部の水溶液においてほとんどの水分子はそのままの形で存在している
これら2つのイオンのバランスは生体内の化学プロセスの適切な進行に不可欠
強い酸の1例は塩酸(HCl)で、これはヒトの胃の中にもある pHの幅は0(最も酸性)から14(最も塩基性)までの間
pHの1ユニットはH⁺濃度の10倍の違いを意味する
pH2のレモン果汁はpH4の等量のトマトジュースより100倍のH⁺を含んでいる
それらはH⁺とOH⁻をともに含んでいるが、その濃度は互いに等しい
生きた細部の内部の溶液のpHは7に近い
細胞内の分子はH⁺やOH⁻濃度に極度に感受性が高く、pHの僅かな変化であっても生物にとって有害となりえうる
生物の溶液はH⁺イオンが過剰なときは取り込み、足りないときは放出するpH緩衝材 bufferとなる物質を含んでいる この緩衝プロセスはしかしながら絶対的ではなく、環境中のpHの変化は生態系に深遠な影響を与える
例えば、人類がつくり大気に放出されたCO₂は海洋によって吸収される
CO₂が海水と反応すると、その化学反応は酸を作り出す
結果として起きる海洋の酸性化はその環境を大きく変えることができる
このような原理はイタリアのナポリの近くの地中海で2008年の研究によって示された
酸性化はサンゴ礁の崩壊と海洋生物の広範囲の死滅を引き起こした
人類が作り出す高レベルのCO₂でも同様の海洋の大災難を引き起こすかもしれないことを示唆している